細胞融合について
生物は進化と共に種に分かれて来て、異なる種の細胞は掛け合わせることができない。当たり前のことで、人間とネズミと掛け合わせられるわけがないし、ポテトとトマトだって自然界の方法では絶対に掛け合わせられない。何と言っても、染色体や遺伝子の塩基配列が異なっているのだから掛け合わせは絶対に無理と考えるのが常識。
そういう常識的な考え方が全て破られてしまったのが、ここに登場する全く新しい生物、つまり細胞融合によって作られた生物である。もし、どんな植物細胞も融合することができて、分化し成育して一本の木まで成長するのなら、そこにいろんな果物がいっぱい成ってとっても楽しいのに。動物ならキメラ動物のように頭がライオン、胴が山羊、尾が竜といったような…
そこで、ここではその細胞融合について述べてみよう。普通、生物の細胞には核が1つだけ存在するが、幾つかの細胞を融合して作られた新しい融合細胞は、2つ以上の細胞が融合し複数の核を持つ1細胞に成っている。1950年代初めにセンダイウイルスによって、数細胞が融合し多核細胞が作られ、染色体が1つに合体して安定することが発見された。現在では細胞をポリエチレングリコール(PEG)で処理したり、電気融合器で電気パルスを与えることにより細胞壁の脂肪層を溶かして小さな穴を開けることで、細胞壁を融合して2つの異種の融合細胞を作ることが可能になっている。動物細胞では未だ個体にまで再生してはいないのだが、細胞融合させるには主にセンダイウイルスやPEG処理を用いてなされている。例えば特定抗原で免疫処理をしておいた動物の脾臓からリンパ球を取り出し、これとガン細胞とを一緒にしてPEG処理をすることによって融合細胞を作る。そしてその中のたくさんの種類のリンパ球の中から1種類の特定抗原にだけ反応するモノクロナール抗体(単一抗体)を産生するリンパ球を見つけ出す。それを組織培養した後にマウスに腹腔内注射し腹水内に単一抗体を大量産生させモノクロナール抗体を、病気の診断薬などに用いている。このように動物細胞は細胞融合技術でネズミの細胞と人間の細胞とを融合した細胞が報告されているのだが、まだまだ試験管内での段階でその融合細胞の分化や成長をさせるのは難しい。
植物細胞においてはまず細胞の塊(カルス)や培養細胞をぺクチダーゼという酵素でバラバラに解離させて単細胞にしてから、細胞の表層にある固いセルロースでできた細胞壁を分解酵素セルラーゼで溶かし、その表層を裸にしたプロトプラスト細胞を作ってからPEG処理することによって新しい融合細胞を作り、栄養培地で育てカルスにまで成長させる。これを植物ホルモンで分化させた後に土に移植し個体にまで成長させる。
植物の場合は細胞融合技術によってバイオ野菜がすでに作られているが、1978年にマックスプランク研究所のメルシャースによって、卜マトとポテトの細胞が融合され、不完全ながら地上にトマト、地下にはポテトができるポマトという新しいバイオ植物が作られた。これは寒い土地でも育つジャガイモにトマトを成らせようというものである。その後、日本でも同様技術で作られた物に、キャベツとコマツナの細胞融合による千宝葉、長ネギ同士から作られた茎太で多収穫の一年中柔らかい春川おく太、白菜とキャベツからつくられたハクラン、セロリとレタスから作られたセルタス、カブと白菜から作られたオレンジ色の葉の野菜臭くないオレンジクィーン、オレンジを病気に強い性質を持つカラタチと細胞融合したオレタチなどがある。