血液中のカルシウムには、食べ物が腸管から吸収されて入ってくるといった入口の経路と、腸管から分泌されて便に排出されたり、あるいは腎臓から尿に出て排泄されたりといった出口の経路とがあります。これら一つの入口、二つの出口に加えて、小さな出口としての汗、そして出入り口としての骨によって、他液中のカルシウムの濃さがコントロールされています。
例えば食べ物で大量のカルシウムを口にした場合は、腸管から血液に吸収されるカルシウム量が制限されて、血液中のカルシウムが濃くなりすぎないような作用が働きます。それでも血液中にカルシウムが多めに入ってくると、大急ぎで便や尿へ棄てて血液中のカルシウム濃度を一定に保とうとする作用が働きます。ここでもう一つの出入り口である骨により血液中やカルシウム濃度をコントロールする仕組みが、緩衝作用として重要な役目を担っています。
血液中に多めのカルシウムが入ってきたときに、骨に圧迫力が加わっていますと、骨を強く保とうとして多すぎた分のカルシウムが骨に沈着します。しかし骨に圧迫力が加わらないで、例えば座った状態が長い生活や寝たきりの生活をしていると、血液に入ってきた多めのカルシウムを尿に流し出して血液中のカルシウムの濃さを一定にしようとします。今度は、食べ物で摂取するカルシウム量が少ない、カルシウムの吸収率を上げる活性塑ビタミンDが少ない、などの状況が続くと、尿や便に流れ出て行くカルシウム分を補いきれずずに、血液中のカルシウムがしだいに低下して行きます。しかし、血液中のカルシウム濃度が100mlあたり8.7mg(個人の体質によって、少し低めの人もわずかに居ます)以下になることは許されません。もしそれ以下になると、細胞が正常に働かなくなり、体に変調をきたすからです。従って血液中のカルシウム濃度が低くなりそうになると、腸管内の食べ物に含まれているカルシウムを貪欲に血液に運び込む一方で、尿や便にカルシウムが出て行かないようにする働きも強まります。それでも、血液中のカルシウム濃度が少しずつ低下して行くような場合は、骨を削ってまでして、カルシウムを血液に溶かして出すのです。このようにして血液中のカルシウム濃度を一定に保っている働きをカルシウム濃度恒常性維持機構、カルシウム濃度のホメオスタシスと呼んでいます。
この血液中のカルシウム濃度のホメオスタシスは、全身の細胞を働かせるために必要であり、これを生じさせているのは腸管、腎臓とともに骨の代謝作用であることがはっきりしています。骨は体を守り支えるだけではなく、生命の本質をも支えていると言えます。