細胞間のコミュニケーションには、細胞が近隣の細胞から化学物質を受取り、その作用で自分の機能を調節する埸合のほか、細胞同士の接触が意味を持つ場合などがあります。発生の過程で形が決まっていく時など、それぞれの場所に置かれた細胞は、位置の情報によりその運命を決められていきますが、それはこのようなコミュニケーションの総合です。

発生のドラマを経験して極限まで分化した細胞は、一般にはもはやそれ以上に分裂増殖できません。しかもこれらの細胞は、働きを終えたら死ななくてはなりません。激しい働きをする細胞は、一般に寿命が短い。胃や腸の内壁細胞は1日~2日、皮膚細胞は約30日、赤血球で120日くらいしか生きられません。しかし終末分化に達した細胞は増殖できません。個体にとって不可欠な役割を果たす細胞は失われていくばかりです。幹細胞の存在がこの難問を解決してくれる多細胞生物のストラテジーです。幹細胞とは、かなり特殊化していますが分化度が少し低く、まだ分裂増殖のできる細胞です。幹細胞は分裂すると一方がやはり幹細胞として残り、もう一方はさらに分化した細胞になります。こうして常に新しい細胞を供給できます。

皮膚を例にしてみましょう。皮膚は何層にも重なった細胞でできています。一番表に出ている表皮の細胞は、もう分裂できず、角質化しており、やがて垢として落ちていきます。表皮の下には基底層と呼ばれるところがあり、そこに幹細胞があります。この幹細胞がニつに分裂し、一つは同じ幹細胞になり、もう一つは分化が進んで表皮細胞になり、上に押し出されます。こうして常に新しい表皮細胞が供給されています。

血液中の色々な細胞も、骨髄に在る幹細胞から造られます。赤血球、免疫を司ったり、侵入してくる細菌などと戦う色々な白血球、血液の凝固をつかさどる血小板をはじめ、色々な細胞が皆同一の幹細胞から何段階かの分裂を経て、細胞外から働きかける化学物資のシグナルを受けつつ、次第に分化の度を高めながら造られてきます。