同一の幹細胞から違う細胞が造られて来る仕組みは、発生学そのものであり、細胞分化のモデルと考えることができます。ここではっきりしていることは、分化の方向を決めるタンパク質因子の存否が大きく関わっていることです。例えば免疫に関与する細胞をでは、主な免疫浴答は、T細胞、B細胞の2種類の細胞が司っています。
T細胞は異物に対して直接細胞自身が働きかけるタイプ、B細胞は抗体を生産して間接的に戦うタイプです。両者がうまく役割分担をして外敵に対処するのですが。インターロイキン2という因子があるとT細胞が増え、インターロイキン4、5の存在でB細胞の分化が進みます。インターロイキン6はB細胞刺激因子とも言われ、B細胞の抗体生産を高めます。ある細胞が、これらの物質の働きでどの程度の細胞になるかが決まってしまうと、それ以後に別の化学シグナルが来ても別系列の細胞に変わることはありません。血液の細胞は、分裂を繰り返しながらの分化を観察できて、中でも白血球はその過程を体外で培養しながら詳しく追跡できます。すなわち位置の問題を考えずに、分化に影響する因子のことだけを知ることができますので、白血球の分化過程は発生の仕組みを調べる一つのモデル系となります。免疫学の急速な発展は、遺伝子の研究と同時に、こうした細胞学的研究法の雜達によるところが大きいのです。
表皮細胞や血液細胞などが消耗しても、こうやって幹細胞から造られる新しい細胞で補われていることがわかりました。
この幹細胞の性質には、『生き物らしさ』を考えさせるおもしろさが在ります。表皮の幹細胞が二つに分かれたとき、一方は死につながる表皮細胞へと運命づけられ、一方は幹細胞として生き残る。この別れ道は何によって決まるのでしようか?分裂した後でたまたま上の方に押し出された細胞が、死ぬ運命を背負ったというだけの偶然の結果なのでしようか?あるいは、たまたま細胞質の中の何かの成分を多く、もしくは少なく受け取った細胞が押し出される連命を背負うことになるのでしようか。
多細胞生物を構成する細胞は、それぞれある節度を守っていなければ、個体全体の秩序を保つことはできません。しかし常に新しくなる必要があるという矛盾を抱えています。幹細胞は、この矛盾を見事に解決しています。