人間の免疫系を構成しているリンパ球系細胞の総数は約2兆個、その約70%がT細胞、残りの30%が、B細胞およびそのほかの細胞です。重量にすると約1kgです。

これらの細胞が、脳や肝臓のような巨大な臓器を作るわけではなく、全身を巡ってはリンパ節や脾臓などの分散した中継点に戻ってきます。近代医学というのは、肝臓、腎臓、心臓、肺など臓器単位での生理的働きや病気を研究するのが中心だったので、臓器を作ることがなかった免疫系は、近代医学の中では相手にされませんでした。

リンパ節や脾臓が、単なるリンパ球循環の中継点ではなくて、細胞間の情報のやりとりや、時にはB細胞の免疫グロプリン遺伝子の組み換えや突然変異を呼び覚ますエッセンシャルな場を提供していました。興味あることに、全身のB細胞の70%は消化管壁に分布しています。生体内に取り込まれている『外部』と常に接触している消化管は、人体で最大の免疫臓器なのです。

リンパ球の多くは寿命の短い細胞で、数十日しか生きない。稀には何十年も生き延びる長命のリンパ球が存在し、それが記憶を担っているのだろうとされています。しかし、通常のリンパ球は、一日に100億個の割合で死んで行きます。すなわち免疫細胞のうち0.5%は毎日入れ替わります。1秒間に約100万個ずつ死んで行く勘定です。

免疫系の正常な活動を保証するためには、毎日同じ数のリンパ球が作り出されなければなりません。そのサプライは、すでに存在する細胞の分裂によるほかに、常時骨髄にひそんでいる造血幹細胞が、複維な分化の過程を通ってT細胞およびB細胞に分化することによって行われます。

いかなる細胞が死んだのか、また死ぬ予定に在るのか、ということを知るすべもなく、胸腺は異なった機能、そして異なった認識能力を持つ細胞を新たに作り出し、送り続けます。こうして、『自己』以外のあらゆるものを相手にできるはずの反応の多様性を作り出し、そのレパートリーを維持するわけです。B細胞のほうもまた、ランダムなV・D・J遺伝子の組み換えによって、新たな反応予備軍を送り出して来ます。それらの細胞は、もともと在った『自己』を大きく変更させることもなく『自己』の戦列に加わり、その時点での『私』の一部と成ります。

それは、次々に遭遇する新しい経験によって揺さぶられながらも、昨日も今日も、そして何年後も、基本的には同じ『私』が存在するのと同じであります。免疫系もまた、消費と補充、損失と回復を繰り返しながら、基本的には同じ『自己』の同一性を持続します。それが、比較的均一な細胞の消費とサプライならば驚くに当たりません。肝臓などは、その2/3を切り取っても、間もなくもと通りの肝臓が再生されます。赤血球などは毎日1,000億個以上もサプライされています。