遺伝子操作、分子生物学の技術によってDNAの操作が出来るようになりました。基本的に言いますと、DNAを特定の箇所で切断し、そのDNAの断片を繋ぎ合わせ、それを異なった生物の中に入れて複製させ、そして発現させることが出来るようになりました。
すべての生物種のDNAはヌクレオチドの直線的な配列でできています。したがって、組み換えDNA技術は種の壁を超えて適用できます。人間のDNAを切断して、その断片を繋ぎ合わせることと同じくらいに、人間と細菌、馬と猿、人間と蝿といった異種どうしのDNAを繋ぎ合わせることも容易です。こうして自然には起こりえない合の子(雑種)DNAを作り出せるように成ったために、分子生物学者の間でも多くの議論が起こりました。
遺伝子操作のもっとも基本的でもっとも有用な道具は制限酵素です。この酵素はニ本鎖DNAの特定の塩基配列(制限酵素認識部位)を識別して切断します。制限酵素は細菌で見つかりますが、細菌ではこれらの酵素は、多分ウイルスの侵入を防ぐ役割を果たしているのでしよう。事実、これらの酵素は攻撃して来るウイルスDNAを切り刻むが、そうしないと細菌はウイルスに殺されてしまうのです。
アメリカのコーエンとボイヤーが1970年代の始め頃に使ってから、約300種類にのぼる色々な制限酵素が見つかっているが、それらはそれぞれ特定の塩基配列を認識します。これらの酵素は、それがその中から発見された微生物の名前の頭文字をとって名づけられています。例えば、制限酵素EcoR1 (エコアールワン)は人間の腸内にいる大腸菌(Escherichia coli)から分離されました。EcoR1は特定の塩基配列GAATTCを持ったすべての箇所でDNA分子を切断します。Pst1の切断箇所はCTGCAG、Msp1の切断箇所はCCGGです。制限酵素が認識する箇所は一般的に4から6塩基対です。統計的に、4個の塩基の組合せが6個の塩基の組合せよりも多い。
人間のDNA分子を6塩基カッター(認識箇所が6塩基対で出来ている制限酵素を呼ぶときに分子生物学者が使う専門用語)で切断すると約100万のDNA断片が、また4塩基カッターで切断すると1000万の断片が出来ます。
制限酵素は特定の位置でDNAを切断するので、しばしば分子ハサミと呼ばれます。リボン状のDNAが小さなハサミで切られるように描かれた図をよく見かけるが、このイメージは分子レベルで行われることをよく表わしています。