昔から恐ろしい感染症が常に若年死の主な原因となっていた。今世紀まで感染症が短命の主な理由であったが、今やこのような感染症は克服された。そのおかげで人間の寿命は延びた。このことは病気が全て制御されるようになった意味するのだろうか?そうではない。新しい時代は新しい病気、つまり現代病を生み出す。これは多因子性疾患と呼ばれこの病気の進展が二つの異なったタイプの要因、つまり環境因子と遺伝的要因の間の相互作用による。心臓病、ガン、喘息、骨粗鬆症や老人性痴呆等がその例である。昔は人々が余り長生きしなかったでこれらの病気になることは少なかったし、健康に悪影響を及ぼすような環境や生活様式が生まれていなかったので、これらの病気は現在よりずっと少なかった。

分子生物学は、これら現代病の驚くべき複雑さを解き明かす最良の新しい手段として期待されている。従来の医学は主に治療や治癒に関して、この数十年にわたり素晴らしい進歩を遂げたが、私達は現在、それを超えて予防の時代に入っている。診断・予測のための検査が進歩したことで、人間の健康状態を改善する戦いは決定的な段階に来ている。分子生物学は医療革命を新しい局面に導き、予防的医学の競争の先頭に立っている。更に、私達は生物の行動や進化の基盤にある複雑さを解き明かすことができると感じている。これは長い間にわたって人類を悩ませてきた問題である。何世代にもわたってきた科学者や思索家によって行われた仕事を引き継ぐものであるが、恐ろしい病気に勝ってよりよい将来をという期待、更に、もっとも知ることの少ないゆえにもっとも恐れているもの、すなわち死の到来を遅らせる希望を新しい研究手段がどのようにしてかなえてくれるかを知ると、私達は勇気づけられる。

分子生物学の主な業績によって、病気は次第にミステリーに見えなくなって来ている。

今、多くの疾患を分子的基礎すなわちDNAのレベルで理解するようになっているばかりではなく、組み換えDNA薬品、つまり遺伝子操作によって製造されるより効果的な治療薬を造り出そうとしている。また心臓病、ガン、エイズ、精神知能障害等の重い病気を予防できるような段階へ徐々に移りつつある。分子生物学の成果によって何を合理的に期待できるか、それは何時なのか知りたいと思っている。

遺伝子操作は、病気との戦いに関与することで、私達がより健康的な生活をする場合には、寿命の延長に寄与することになるであろう。社会はこのような生活様式の変化にどう対応すべきだろうか。また人々がより健康的な生活様式を取り入れるため、政府はどのような権利や倫理的な義務を持つべきだろうか。日常生活は全ての面で、こういった決定に影響を受ける。もっと実際的な疑問としては、保險会社は顧客が心臓発作に襲われる劇的に高い危険性を持っているという情報を得た場合、どのように反応するかの問題がある。