人間の体のように高度に発達した生命体は、非常にたくさんの構成細胞からできている。人間を構成する細胞の数(大まかに見積もって60兆個、10億の60,000倍)は非常に多いので、その規模の大きさを実感するのは難しいが、例えば、私達の細胞がレンガだとしたら、それを使って中国の万里の長城に匹敵する構造物を世界中に17回も作ることができるだろうと言うことである。
各々の生命体はその種類に応じて、予め決められた数の細胞から出来ているが、個々の細胞の大きさは動物個体や植物個体の大きさとは関係がない。マウスのある細胞は象のある細胞よりも大きいし、同じ生物の異なった器官では細胞の大きさが違う。一般的に言って、細胞の直径は10分の1から100分の1mmの範囲である。細胞は必要に応じて、体内の他の部分と低分子の物質を交換することができる。
細胞は生きている構造体である。細胞は成長するだけでなく、非常に数多くの生化学的な反応が行われる工場を構成し、また細胞と細胞の間ではある種の信号のやりとりが行われる。細胞の際立った性質は細胞分裂を行うことである。実際、生物の全ての細胞はたった1個の細胞、つまり受精卵から何回もの細胞分裂を経て出来てきたものである。神経細胞などのように高度に特殊化し分化したものを除いて、細胞はそれぞれ生きている間成長分裂し続ける。皮膚の再生、傷の治癒、毛や爪の伸長など、日常よく見られる現象は、みな細胞分裂のおかげである。
人間の体の全ての細胞(赤血球を除く)はDNA分子を含んだ核を持っている(核以外の部分は細胞質と呼ばれる)。細胞分裂をするときには、分裂によってできる二つの娘細胞が各々の正確に同じ遺伝情報を持つようにDNAが複製され細胞核が分裂する。DNA分子の2本の鎖が相補性を持っているために、このことが可能なのである。核が分裂するとき、DNAの2本の鎖は分離して一本鎖になり、その各々が鋳型となって新しい相補的な鎖ができる。このように、細胞核の分裂に際してはお互いに同等で、もとの細胞のDNAとも同等な2つのDNA分子ができるのである。私達の体の中では1日に3億mile(約4.8億km)という驚くべき速度でDNAが合成されている。
ある生物個体を構成している全ての細胞は、原則として同一の遺伝物質を持つと考えられているが、この事実に基づいて、サイエンスフィクション~例えば、ある個人の体の一つの細胞からクローン人間(コピー人間)を作ることができるといったような話~が生まれた。カナダのある企業の研究者たちはすでに動物でそのような実験を試みた。彼らは1個の初期胚に由来する細胞から、少数のクローン雌牛を作り出したのである。その後、核移植をいった胚を操作して、研究者たちは9頭と12頭のクローン雌牛、4頭のクローン羊、6羽のクローンウサギを作り出したのである。近い将来、特に経済的価値の高い特殊な素質の選択、つまり「たくさんの牛」、高品質の肉、高泌乳性、硬い穀の卵、病気に対する遺伝的抵抗性などを持った動物を作り出すために、科学者たちがこの方法を適用することが期待されている。このような選択は均一性に向かいやすい、つまり自然の遺伝的多様性を減少させてしまうという批判もあるが、一方ではこのような技術で、希少価値の、そのままでは絶滅してしまうような特質を持った動物の胚を凍結して保存することができるようになると言う議論もある。