親友や恋人同士、長年連れ沿った夫婦には「しっかり者+面白い人」の組み合わせが多い。一方が油断なく周囲に気を配り、一方が何時も何かに熱中しているという具合である。前者が知覚派なら、後者は創造派という組み合わせである。能力が違えば、両者間で分業やシステム化が成立し、付加価値が生み出される。
ペアリングは、有形にしろ無形にしろ、何らかの付加価値を生まなければ面白くない。学習や記憶、言語や思考などの高次な機能を司る前頭連合野でも、システム化や分業が行われている。人間が複雑なことを考えることが出来るのは、大脳新皮質のシステムと分業の妙である。前頭葉の周囲には、視覚などの感覚、運動などを担当する頭頂葉、後頭葉、側頭葉があるが、これらの機能を前頭葉に結びつけているのも分業とシステムの原理だ。一つの人格が、混乱もなく、働いたり浪費したり、映画を見たりテニスをしたりなど多様なことができるのは、脳の機能が優れているからというより「システムと分業」の関係が旨くいっているからである。
異色同士の人間関係が旨く行くのは、その組み合わせが異色であればあるほど、思考や行動に幅と深みが出て来るからである。似たもの夫婦は、案外、味気なく、友達も、気の合うだけでは友情が深まらない。「旅をするなら三人で」と言われるのも、三人の内の誰かが異色となるためらしい。離婚の原因のトップは『性格の不一致』だというが、この異色の組み合わせが旨くいかなかったのは、分業やシステムの機能が働かなかったためである。
脳はコンピューターとしてほそれほど高度な構造にはなっていない。その脳が高度なパワーを発揮できるのは、140億個以上と言われるニューロンやシナプスなどの神経細胞が「分業とシステム」の機能を持っているからである。システムでつながれた脳の神経細胞を半導体に例えると、脳ミソは、何万台、何十万台のコンピューターを連結したようなもの。
頭を良くするには、考え方に、脳の『分業とシステム』を導入することである。
脳の働きを特性によって三つに分けると
- 階層性
- 並列性
- 可塑性
となる。
これが『分業とシステム』の正体である。人間の脳は、本能を宿す脳幹から人間らしい新皮質まで、階層的に出来上がっている。女性の裸を見ると興奮し、反省し、工夫し、それから人生の深淵と宇宙の謎について考える。脳の階層性は『知・情・意』にあるが、ここでいう『意』は、意識ではなく、意欲である。
これが縦軸なら、並列性は、輪郭や色、立体感や質感などの異なった要素を同時的、並列的に捉える横軸の能力である。しかもこれは一つの対象だけに限らない。
並列性は幾つものことを同時に進行させる、ということである。オタクは一つのことにかかりっきりになるが、これでは脳の神経ネットワークが偏向し、バランスの良い考えが浮かび上がってこない。脳は世界の森羅万象を横軸に見渡す能力を持っており、この能力があるからこそ健全な人は、パラノイアや神経症を免れているのである。
可塑性は、脳が学習し、環境の変化に柔軟に対応する、ということである。