厚生省は成人病を生活習慣病と呼び名変更をしましたが、もともと、成人病という名の病気は存在しません。医学用語ではありません。成人病とは『年を取ることによって多発しやすくなる病気』の総称として、厚生省が1956年に名づけた行政用語です。
きっかけは日本人がかかる病気の変化でした。それまで長年、日本人が死亡する病気のトップの座にあった結核が、有効な薬の開発などによって激減し、その代わりに脳卒中やガン、心臓病が死因の上位を占めるようになりました。
加齡とともに増えてくる病気としては、ガン、高血圧、高脂血症、脳血管障害、心臓病、糖尿病、白内障、肝臓病、前立腺肥大、骨粗鬆症などさまざまな病気があげられますが、なかでもガン(悪性新生物)、心臓病(心疾患)、脳卒中(脳血管疾患)、の三つは死亡率の上位三位をほぼ20年間独占してきたため、三大成人病と呼ばれていました。ガンをはじめとする成人病の增加の原因は、この40年間、常に問い続けられてきましたが、世界各地で様々な研究が続けられて次のようなことが解ってきました。
大気汚染、水質の悪化、紫外線の増加など、ここ数十年に急激に起こった地球の環境の変化に、その理由を求める研究もされています。実際、環境汚染が進むにつれて、私たちのまわりには明らかにこれまでには見られなかったような発ガン性物質が増えてきています。またオゾン層が破壊されはじめたことで、皮膚ガンを起こす原因となる紫外線の増加も記録されています。しかし多くの研究者たちが出した結論は、もっと身近なものでした。つまり、現代社会の生活習慣『ライフスタイル』が成人病の最大の原因となっている、といいます。それがこの度、厚生省の呼び名変更となったのでしょう。そしてそのライフスタイルのなかでも、とくに生命の維持に重要な位置を占めている私たちの食生活に、成人病、生活晋憤病が引き起こされる、最大の問題があると指摘されています。
何ごとにも先進国であるアメリカでは、すでに1977年に食生活と成人病の密接な関係が『マクガバン•レポート』いう形で明らかにされています。成人病は『食源病』であると、はっきり打ち出して国民に警告を発したのです。
最近の日本人の食生活がどんどん西洋化され、マグガバン・レポートが出された1970年代当時のアメリカの食生活の数値に限り無く近づいている、といわれます。その証拠に、これまで30代以上の大人の専売特許であったはずの高脂血症や高血圧、糖尿病、歯周病などの症状が、日本の子供たちの間にも静かに広がっている事実が、次第に明らかになってきています。大人の手抜きはすぐに子供たちの食生活に反映され、新しい食品は子供たちに先ず受け入れられて行きます。朝食抜き、間食、夜食が多く、インスタント食品、スナック菓子類が好き、肉類が多く、魚類は骨があって嫌い、野菜は色が薄く水分の多い葉っぱものをサラダ(生野菜)の形でとり、根菜類は固いから嫌い。コーラや清涼飲料は必需品。オムレツ、カレーライス、アイスクリーム、サンドイッチ、焼きそば、ハンバーグ等です。最近ではこういった食品が食卓に上がる機会も少なくなって来ています。
ちなみに、長年、沖縄が日本で一番の長寿県であり続けている大きな要素に沖縄の島々の土壌にサンゴによって作り出された炭酸カルシウムが大量に含まれていることが知られています。実際、沖縄で栽培された野菜のなかにはカルシウムが豊富に含まれています。それに加えて、沖縄の伝統的な食生活では、ミネラル分と食物繊維の豊富なコンブや良質のタンパク質を含む豚肉がふんだんに使われています。温暖な気候と理想的な食生活が、沖縄の長寿の秘密だったのです。
では、カルシウムが不足するとどんな弊害が起きるのでしようか。第一の問題として、骨がもろくなり骨折しやすくなること、そして歯が弱くなり、「骨粗鬆症」を引き起こします。このカルシウム不足からくるこうした骨や歯の問題は、成長期の子供が深刻なのです。ちょっと転んだだけで腕や足を骨折してしまう子供がいます。また、ロを開けたら虫歯だらけ、硬いせんべいを噛んだとたんに歯が折れてしまうといった、信じられないような事故が起きています。
人間の体の中にあるカルシウムの約99%は、骨や歯の中に存在しています。人間はカルシウムを骨や歯に貯金しておき、必要なときに引き出しているわけです。つまり骨は、人体を物理的に支えるという役目だけでなく、カルシウムを貯める銀行の働きもしています。
残りの僅か1%が、血液と細胞中にあるわけですが、実はこの僅か1%のカルシウムが、細胞の働きを助け、生命を維持するための様々な場面で使われているのです。そのため、血液中と細胞内のカルシウムの濃度は、それぞれ一定に維持されるよう厳密に管理されていて、それが増え過ぎたり不足したりすると、すぐに体に何らかの異常を来してしまうことになります。
カルシウムは、受精から分娩、筋肉の収縮、神経による情報の伝達、ホルモンや抗体の合成など、生命の営みの重要な局面に関わっている物質です。たとえば、精子が卵子に到達して受精が行われた後、細胞分裂がはじまるわけですが、そのきっかけの合図、信号として働くのがこのカルシウムです。また脳から神経を通して筋肉細胞への収縮や弛緩の命令を伝えることにも、このカルシウムが大きな役割を果たしています。血液中に必要以上のカルシウムが増えてしまうと、腎臓結石ができ、心臓の働きにも編重をきたし、筋肉の力が弱まり、眠気がし、元気がなくなって、やがて意識がなくなることさえあります。反対に、カルシウムが不足してくると、神経の活動が盛んになり、常にピリピリとしている神経過敏の状態が続きます。根気もなくなり、抑制のきかない短気な性格になるともいわれています。
ではカルシウムをたくさん取れば良いのかというと、実はそう単純ではありません。カルシウムの場合は、どのような形で何と組み合わせて摂取するのかも、吸収率を大きく左右します。今日の食生活は肉類に片寄ってしまっています。そのため血液のPHも酸性になりがちです。出来るだけ体内を弱アルカリにする食事を心掛ける事。
現代日本の食生活にもっとも不足しているのは、食物繊維、ビタミン類、そしてカルシウムだといわれています。自然にもう少し近いところに暮らしていたひと昔前の食卓には、むしろふんだんにあったものです。反対に現代の食卓に急速に増えてしまったものとして、動物性タンパク質、脂肪類、塩分、そして合成保存料などさまざまな食品添加物があげられています。
この差が何をもたらすのかは明白です。疑問の余地はありません。食物繊維、ビタミン類、そしてカルシウムの三つの要素が私たちの食生活から激減し、その反対に脂肪や塩分、食品添加物などが増えてしまったことが、明らかに生活習慣病の急増を招いているのです。生活習慣病が『食源病』といわれる所以です。そして子供の頃から食生活に問題を抱えている現代の若者たちこそ、生活習慣病の最大の予備軍なのです。今のところこれといって問題が現れていなくても、いずれ必ず深刻な生活習慣病を抱えることになるでしょう。
ところで、画期的な食品としてインスタントラーメンの第一号「チキンラーメン」が販売されたのは、1958年8月25日でした。おかげで8月25日は『ラーメンの日』になっています。それ以来、インスタントラーメンの消費量は増え、1994年には、実に45億8000万食が生産されています。
皮肉なことに、曰本で『成人病』という言葉が使われはじめたのも同じ頃です。もちろんインスタントラーメンだけが成人病の原因ではありません。しかし現代食の代表選手ともいえるインスタントラーメンの普及と日本人の食生活の変化、そして成人病が急増した三つの時期がほぼ重なることを考えると、インスタントラーメンに一つの時代が象徴されているように思われます。
成人病、生活習慣病が『食源病』である限り、健康はその人自身で守るしか方法はありません。自分が何を食べているのかを管理できるのは、自分自身しかいないからです。毎日、どういったものをどれだけ食べているのかを意識して暮らす、その一日一日の地味な積み重ねが、肉体の良好なバランスの上に成り立つ、かけがえのない「健康」を作り上げていくのです。
ではこれから、今日の日本の食生活に不足している栄養素を、その代表格としてのカルシウムとカロチン(ビタミンA)について説明しましよう。
日本人のカルシウム不足については、昔から指摘されています。その理由は、実は日本列島の地質的特性にも関わっています。火山活動によって誕生した日本の土壌には、最初からカルシウムをはじめとしたミネラル分が非常に低いのです。野菜はカルシウムの一番の補給源といわれているのですが、残念なことに日本の場合はこの野菜に頼ることが出来ないのです。日本の野菜は、フランスで栽培される野菜のわずか五分の一、イギリスの野菜の四分の一程度しかカルシウムを含んでいません。当然、飲料水に含まれるカルシウムなどのミネラル分も低いので、意識的に補給することを考えないと、どうしてもカルシウムが不足してしまいます。そのこともあって、日本人は古くからの知恵として小魚や海藻類を大量に食べてきました。