発病に関わる遺伝子を検出する。人の細胞核の中には46本の染色体があり、この染色体を形成している遺伝子(DNA)の総数は5万~10万にのぼるものと推定されています。
遺伝子の複製を容易につくれるPCR法(連続ポリメラーゼ反応法)という技術の登場で、人の遺伝子の約10%についてその性質が明らかにされ、病気の発症に関わる遺伝子も数多く発見されています。
現在、曰本人の死因の13%は感染性疾患によるものですが、残りの87%は環境的要因(生活習慣など)に多少とも遺伝が絡む遺伝性疾患であると考えられます。遺伝性疾患の中にはガン、心臓病、脳卒中、高血圧、動脈硬化、糖尿病など成人病の多くが含まれます。ガン細胞は、正常細胞の中にもともと存在するガン遺伝子やガン抑制遺伝子の異常によってできることが明らかにされました。例えば大腸ガンはK-rasという名前のガン遺伝子の異常に、FAP、P53、DCCなどのガン抑制遺伝子の欠損が重なって起こります。このことを応用すれば、集団検診の検便でこれらの遺伝子の検出を行い、大腸ガンの早期発見に役立てることも早晚可能になるでしょう。
このように病気の発症に関わる遺伝子を検出して、予防や治療を施そうとするのが、遺伝子診断(DNA診断)です。遺伝子診断の技術は、病気そのものには遺伝が関与しない感染性疾患の診断にも応用されています。
B型・C型肝炎やエイズでは、ウイルス感染を見つけるのに、ウイルスに特異的な遺伝子を検出する検査法が開発され、実用化されています。エイズの検査では通常、HIV(エイズウイルス)抗体を調べる検査法がとられますが、母子感染が疑われる場合など、もともと母親の血液中にあったHIV抗体が赤ちゃんの体内に移行して1年以上残ることが多いため、抗体検査法では赤ちゃんへの感染がすぐにはっきりしません。こうしたケースにも遺伝子診断が役立っています。