病気や怪我で傷ついた体の細胞を、新しく取り換えて治すことは可能であろうか?

壊れた部品を交換して機械を修理するような革新的な医療は、決して不可能ではないと言える可能性が考えられる。

様々な組織に成長する「万能細胞」から脳神経や皮膚などの生体組織を人工的に作り、スペア部品として使用する可能性が出てきている。ただし倫理的な課題は残される。

万能細胞は、正確には胚性幹細胞のことである。受精卵が何回かの分裂、増殖を経て成長したものを胚と呼んで居るが、胚は更に分裂を重ね、心臓や神経、血液、骨、皮膚といった多様な組織に変化していく。

ただ初期の段階では、胚を構成する個々の細胞はどんな組織に成長するかはまだ運命づけられていない。

これが胚性幹細胞で、胚を意味するエンブリオと幹細胞のステム・セルの頭文字を取って「ES細胞」とも呼んでいる。ヒ卜のES細胞は1998年11月に米国ウィスコンシン大学が世界で初めて培養。生理活性物質を出すマウスの細胞と一緒に培養すると、刺激を受けたES細胞が神経や骨の細胞へと変化した。

このES細胞を、脳神経細胞に育て上げ、運動障害の起きるパーキンソン病患者の胚に増殖した神経細胞を移植し、治療に使う考えが出された。

国内のパーキンソン病患者、は4万人以上で、高齢化に伴い、過去10年間で倍増している。脳神経細胞の移植は根本的な治療に道を開くことになる。パーキンソン病に限らずうまく目的の細胞を作り出せば、白血病や糖尿病など様々な病気の治療に利用できる。

心臓や肺といった臓器を丸ごと作り出すのも夢ではなくなった。臓器の細胞や部分的な組織ができれば移植医療に役立つ。国内で移植を必要とする患者は、心臓で600万人、肝臓で3000人、肺で500人。99年に脳死臓器移植が4例実施されたものの、慢性的な臓器不足は相変わらずである。臓器の傷んだ部分をES細胞から作った組織に取り換えるだけでも、多くの命が救われる。もっとも実現には課題も多い、胚を子宮に戻して成長させれば胎児となり、人間が産まれる。立派な生命に成り得る胚という細胞を操作することが、どこまで許されるのか。ES細胞を作るために受精卵を力ネで取引するようなことが横行しないか、生体組織を作り出して利用する行為そのものが、生命の冒流にならないか?

こうした点を含め研究を進める上でのルールも確定されねばならない。

技術の暴走を防ぐため、研究を実施する大学と国の両方に倫理委員会が設けられ、研究内容が審査されるようにする。また研究に使う受精卵は、不妊治療を目的に体外受精で作られ、使われずに要らなくなったものに限定するとかすべきであろう。

欧米もこうした倫理的な問題については慎重に検討されている。欧米は不妊治療の研究が先行し、人間の胚を扱う研究については1990年より相次いでルールを設けてきた。

ES細胞については、より厳しい条件を付けて進めるべきであろう。

ES細胞から作る細胞や組織の対象となる病気、怪我への研究は一層進めるべきである。

※注釈
この書面は2000年8月に岩崎博士が執筆されたものです。
2014年の現在、改めてこの文を読んでみるとES細胞の倫理的問題について言及し、将来の細胞レベルの先進医療に対する思いと理想が詰まった文であると感じました。
岩崎博士は生前にIPS細胞のようなものが出現することを信じていたのかもしれません。
これから実用化レベルまで医療技術が進歩すると、より多くの人が救われるようになります。
その時になるまでは、弊社もお客様の真に役立つ健康食品を提供し続けたいと思います。