水分量が多くなって、水や泥のような便を排出する下痢は、普段でもよく起こる現象です。例えば、寝冷えをしてお腹を冷やした時や、冷たいものを食べ過ぎたなどという時には、下痢をすることがあります。下痢が起こるメカニズムは、大きく四つに分けることができます。
一つ目は、腸で水分と電解質の吸収が悪くなった場合、小腸でこの吸収障害を起こすと水の吸収が悪くなり、普段より多めの水が大腸へ行って下痢便になるのです。乳糖の不完全消化によって起こる下痢がこれに当たります。
二つ目は、腸管壁からの水分分泌が盛んになり過ぎて起こる場合。コレラ菌などの毒素やウイルス、脂肪酸、胆汁酸などがその原因となります。
三つ目は、腸管粘膜に潰瘍などが起こり、吸収能力が低下するだけでなく、そこから血液などがしみ出して起こる場合。便の中に血液や膿などが混じってきます。
四つ目は、腸管の運動が異常に盛んになったり、逆に低下したりして起こる場合。バセドウ病や過敏性腸症候群では腸の蠕動運動が亢進して、腸管内容物が早く通過しすぎて下痢を起こすことがあります。糖尿病では逆に腸管の運動が低下して、停滞した腸管内容物が細菌の繁殖を招き、それが吸収障害を起こして下痢になります。
冷たいものを食べて下痢するというのは、四番目のケースに当たります。アイスクリームや氷といった冷たいものが体の中に入って来ると、反射的に腸の運動が激しくなり、その結果、下痢を起こすのです。体の他の部分に異常が見られず、一時的に下痢しているというだけなら、あまり神経質に考える必要はないでしょう。腸の粘膜さえちゃんと機能していれば、下痢をしていても栄養分はしっかりと吸収されているものなのです。
発熱などを伴って急に下痢が起こる。高熱、腹痛、嘔吐などの症状を伴う下痢があれば、細菌性の食中毒、細菌性赤痢、あるいは薬による急性腸炎の疑いがあります。この場合は血の混じった便が出ます。またこのような症状とともに水のような便が激しく出る時は、ウイルス性の腸炎やコレラも考えられます。こうした病気が疑われる時は、直ちに内科、消化器科で便の細菌検査を受け、病気の原因を突き止める必要があります。
日本では、今コレラはほとんど発生していませんが、海外に旅行した人などがたまたま発生することがあります。食中毒などで激しい下痢を起こした時、下痢を止めるのが第一、とだれもが考えることですが、これは全て正しいとは限りません。腸管出血性大腸菌O-157による腸炎の場合、大腸菌の出す毒素が激しい下痢と腹痛を起こします。この毒素は腎臓や中枢神経の障害も引き起こすのです。従って、強引に下痢を止めてしまうと、体内に毒素がそのまま残り、よけいに症状を悪化させるおそれがあります。急性の下痢が起こった時には原因をよく突き止めてから対処することが重要になります。もちろん、毒素を出さない細菌による腸炎では、抗生物質で細菌を殺しながら、下痢を止める処置を行って行きます
慢性的な下痢がずっと続く。急に起こる下痢に対して、長期にわたって続く下痢もあります。医学的には、慢性の下痢という時は、子供と大人では3週間以上、乳幼児では4週間以上続くものを指します。このような慢性的な下痢が続く時は、早めに内科で診察を受け、適切な処置を行なう必要があります。そこに重大な病気が潜んでいる可能性が高いからです。血液や粘液が混じっている時に便の検査を行うと、ここでアメーバ赤痢が見つかることがあります。便にアメーバや細菌が見つからない時は、内視鏡などによる検査を行います。これらの検査で、大腸ガン、大腸ポリープ、潰瘍性大腸炎などを診断できます
慢性的な下痢で、水や泥のような便が続く時は、原虫感染や寄生虫病の疑いがあります。大量の軟便で、しかも脂ぎった便であれば、吸収性不良症候群が考えられます。また、バセドウ病や糖尿病が原因で下痢が続く時は、それぞれの病気に特徴的な症状が必ず出てきます。これらと合わせて診断して行けば、ある程度まで正確な診断が下せるはずです。