絶対にあってはならないのは医療ミスです。しかし現実には、新聞紙面を大きく占領するような、まったく意外で深刻な医療ミスに驚かされます。
この医療ミスの防止に欠かせないのは、広く一般の人々が医療行為についての常識的な知識としてカルテの読解力を持つことです。それは案外と難しいものではないのです。
そこにカルテの開示が公開されることの意味があり、欧米では既に公開制度が法定化され、我が国でも近く公開が制度化されようとしています。その時のためにも解読力を養って置くべきです。
もともと医療行為には、病気や症状の積類ごとに、医療者(医師・看護婦を始めとした全ての医療従事者)は、必ずしなければならないことと、絶対にしてはならないこととがあります。いわば診療上の「必要」と「厳禁」であります。この「必要」が欠けたり、「厳 禁」が行われたりした場合が医療ミスです。この「必要」と「厳禁」の情報こそが、医療 ミス防止に必要不可欠な予備情報と言う訳です。
そこに、各種の医療ミスを患者自身が未然に防げる方法を引き出すことが出来ます。それがカルテ開示に伴ってのカルテの解読力なのです。カルテ開示によって、何よりも効果的なのは、医療者と患者の協同作業が成立しやすくなります。医療者と患者が診療情報を共有して、病気の状態や治療方法について共通の認識を持てば、病気を克服するための作業に協同で取り組むことが出来ます。それが結局は医療の精度や効果を高める結果に繋がっていきます。また、カルテを患者も見るということになれば、医師も、読みやすく書く意識を持つことになり、医療者全員がカルテの意味の中で「必要」と「厳禁」についての鑑別に参加できることになり、医療ミス防止だけではなく、医療効果の向上に協力することができる。まさに2 1 世紀での医療体制の指針となります。それには、そのカルテ開示に伴う効果をより具体的なものにするためには、開示されたカルテの内容に付加的な情報も必要になります。つまり、カルテに書かれている診療の実態の中から、医療ミスに該当するような誤りを見分けるための基準となる付加情報です。
例えば、診療上の「厳禁」には次のような行為があります。胃潰瘍などで胃に穴が開いている場合の「厳禁」は、硫酸バリウムを使う造影検査ですが、穴が開いた胃にバリウムを流し込めば、胃の外の腹腔へ漏れ出し、不要に病状を悪化させる原因になります。この検査を避けるべきは当たり前です。しかし、硫酸バリウム検査は、胃の中の状態を調べる有効な方法ですから、仮に穴の位置がはっきりしない患者に、その検査をして位置を確認しようとするヤブ医者がいたら、そんな場合、患者がカルテの開示でそれまでの病状を正しく知っていて、しかも「厳禁」情報を持っていれば、検査を断り、自分で被害を未然に予防することができます。診療上の「必要」と「厳禁」への知識を身につけ、医師まかせ一辺倒の受診ではなく、診療に自主的に参加し安全で質の高い医療を受けましょう。